ZEBとは?意味・仕組みをわかりやすく解説
ZEB(ゼブ)とは、建物のエネルギー消費量を大幅に削減し、最終的に実質ゼロを目指す「ゼロエネルギービル(Net Zero Energy Building)」のことです。一言でいえば、「使うエネルギー」と「創るエネルギー」を差し引きゼロにする建物です。
近年は脱炭素やカーボンニュートラルの流れを背景に、企業や自治体を中心に導入が進んでいます。
しかし、「ZEBという言葉は聞いたことがあるけど、どんな仕組みなのかわからない」「ZEHとの違いは何?」「導入するとどんなメリットがあるの?」と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。
特に、自社ビルの建設や改修を検討している場合には、ZEBの基本を正しく理解しておくことが重要です。
この記事では、ZEBの意味や仕組みをわかりやすく解説するとともに、ZEHとの違いや4つの種類、導入メリット、導入時の課題と解決策、補助金制度、導入事例まで幅広く紹介します。
ZEB(ゼブ)とは?
環境省:ZEB PORTAL
ZEB(ゼブ)とは「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の略称で、省エネと創エネを組み合わせることで、建物の年間エネルギー収支を実質ゼロにすることを目指した建物のことです。
オフィスビルや商業施設、公共施設などを対象に導入が進められています。近年は、脱炭素社会の実現やカーボンニュートラルへの取り組みが加速する中で、企業の環境対策や建築分野においても重要なキーワードになっています。
ここでは、ZEBの定義や注目される背景、日本における政策動向について解説します。
ZEBの定義
ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル) の略称で、「ゼブ」と読みます。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物です。
経済産業省資源エネルギー庁「ZEBロードマップ検討委員会とりまとめ」(平成27年12月)では、ZEBを次のように定義しています。
「先進的な建築設計によるエネルギー負荷の抑制やパッシブ技術の採用による自然エネルギーの積極的な活用、高効率な設備システムの導入等により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギー化を実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、エネルギー自立度を極力高め、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物」
この定義を踏まえ、ZEB導入を検討する上で押さえておきたいポイントが2つあります。
- 「電気代削減」にとどまらない建物価値の向上
ZEB化によって期待できる効果は、光熱費の削減だけではありません。エネルギー価格の変動リスクの低減、快適性や生産性の向上、環境性能の可視化、不動産価値や企業価値の向上など、建物と企業経営の両面に長期的な価値をもたらします。 - 「完全ゼロ」より「ZEB Ready」が現実的なゴール
「ZEB=完全にエネルギーゼロの建物」と思われがちですが、普及の主役はZEB Readyです。太陽光発電なしでも省エネだけで基準値比50%削減を達成するこの水準は、国が「2030年までに新築建築物の平均でZEB Ready相当」を目標として掲げる現実的なラインです。
ZEBが注目されている背景(脱炭素・カーボンニュートラル)
ZEBが注目される最大の背景は、脱炭素・カーボンニュートラルへの取り組みです。
カーボンニュートラルを実現するためには、業務部門(事務所ビル、商業施設などの建物)のCO2削減が重要です。環境省「ZEB普及目標とロードマップ」によると、業務部門からのCO2排出量は2019年度時点で我が国全体の約2割程度を占めており、1990年度以降の経済成長(実質GDP28%増)に対して、産業部門のCO2排出量が24%減少した一方で、業務部門は48%増と大幅に増加していることが指摘されています。
このように、業務部門は他部門に比べ増加が顕著であることから、徹底的な省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの活用によるCO2削減が我が国にとって重要な課題となっています。 こうした状況を受け、建物が置かれる環境そのものが大きく変わりつつあり、特に企業活動において環境の負荷低減が求められる場合には、ZEB化への対応は企業にとって避けられない流れとなっています。
こうした背景から、2021年10月に閣議決定された地球温暖化対策計画では、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比46%削減するという中期目標と部門別内訳が示されており、業務部門においてはエネルギー起源CO2排出量を同年度比51%削減するといった、家庭部門の66%に次いで厳しい目標が設定されています。
日本におけるZEB政策と普及目標
経済産業省「ZEBロードマップとりまとめ」によると、我が国の第4次エネルギー基本計画(2014年4月閣議決定)において、「建築物については、2020年までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEBの実現を目指す」とする政策目標が掲げられました。
さらに、環境省「ZEB普及目標とロードマップ」によると、建築物については「2050年のカーボンニュートラル実現の姿を見据えつつ、2030年に目指すべき建築物の姿としては、現在、技術的かつ経済的に利用可能な技術を最大限活用し、新築される建築物についてはZEB基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることを目指す」ことが目標として掲げられています。
加えて、「今後予定する新築事業については原則ZEB Oriented相当以上としつつ、2030年度までに、新築建築物の平均でZEB Ready相当となることを目指す」ことも閣議決定されており、ZEBへの取り組みは官民を挙げて加速しています。
制度面でも、環境省「ZEB普及目標とロードマップ」によると、国土交通省・経済産業省・環境省の傘下に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策のあり方検討会」が、内閣官房の傘下に「国・地方脱炭素実現会議」が設置され、住宅・建築物における脱炭素化の方向性や地域主体による公共建築のZEB化促進について議論が進められてきました。こうした取り組みは、環境省・経済産業省・国土交通省の3省連名で公表された2024年度版ZEBパンフレット「ビルは"ゼロ・エネルギー"の時代へ」にも示されており、ZEBが省庁横断的な重要政策として位置づけられていることがわかります。
ZEBとZEHの違い
ZEB(ゼブ)とZEH(ゼッチ)は、どちらもエネルギー消費を抑え、再生可能エネルギーを活用することで「エネルギー収支ゼロ」を目指す点は共通しています。
ただし、対象となる建物や目的、導入の考え方に違いがあります。
ここでは、ZEBとZEHの違いについて「建物の種類」「対象」「目的」の観点からわかりやすく解説します。
ZEBとZEHの違い(住宅とビル)
ZEBとZEHの最大の違いは、対象とする建物の種類です。
ZEBは「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の略称で、オフィスビル・商業施設・学校・病院・工場といった非住宅建築物を対象とした制度です。経済産業省資源エネルギー庁「ZEBロードマップ検討委員会とりまとめ」(平成27年12月)においても、ZEB政策の対象範囲は「新築建築物とし、新築戸建住宅は含まない」と明記されています。
一方のZEHは「Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略称で、戸建住宅や集合住宅(ZEH-M)を対象とした制度です。国土交通省「ZEH・LCCM住宅の推進に向けた取組」では、ZEHを「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」と定義しています。
用途や建物の種類によって導入すべき制度が異なる場合があるため、目的に応じて適切に選択することが重要です。
ZEB・ZEHの目的の違い
ZEBとZEHは、どちらも2050年カーボンニュートラルの実現を大きな目標に掲げていますが、それぞれが担う役割には違いがあります。
ZEBは主に業務部門のCO2削減を担う制度です。環境省「ZEB普及目標とロードマップ」によると、業務部門からのCO2排出量は我が国全体の約2割を占めており、1990年度以降で48%増と他部門に比べて増加が顕著です。こうした背景から、企業や公共機関が保有するビルの省エネ性能を高め、エネルギー消費を削減することが、ZEBの中心的な目的となっています。
加えて、エネルギー自立度を高めることによるBCP(事業継続計画)性能の向上や、ESG投資・SDGsへの対応といった企業経営上のメリットも期待されています。
ZEHは主に家庭部門のCO2削減と住環境の向上を担う制度です。居住者が日常生活の中で光熱費を削減しながら、断熱性能や省エネ性能の高い快適な住環境を実現することが主眼に置かれています。 このように、ZEBとZEHは「エネルギー収支ゼロ」という共通のゴールを持ちながらも、対象建物・制度設計・主な担い手がそれぞれ異なる、建築分野の両輪となる制度です。
どちらも建物性能の底上げを通じて脱炭素社会の実現を後押しする、重要な取り組みといえます。
| ZEB(ゼブ) | ZEH(ゼッチ) | |
|---|---|---|
| 正式名称 | Net Zero Energy Building | Net Zero Energy House |
| 意味 | ネット・ゼロ・エネルギー・ビル | ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス |
| 対象建物 | 非住宅建築物(オフィス・商業施設・学校・病院・工場など) | 住宅(戸建住宅・集合住宅) |
| 主な担い手 | 企業・公共機関 | 個人・住宅事業者 |
| 主な目的 | 業務部門のCO2削減・エネルギー自立・BCP強化 | 家庭部門のCO2削減・光熱費削減・住環境向上 |
| 共通点 | 年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指す | 同左 |
| 政府目標(2030年) | 新築建築物の平均でZEB Ready相当を目指す | 新築住宅の平均でZEH水準の省エネ性能を確保 |
ZEBの仕組み|エネルギー消費を実質ゼロにする考え方
環境省:ZEB PORTAL
ZEBは「エネルギーを使わない建物」ではありません。省エネ技術で消費するエネルギーを極限まで減らし、創エネ技術でエネルギーを生み出すことで、年間の一次エネルギー消費量の収支を実質ゼロにすることを目指す建物です。
環境省「ZEB PORTAL」では、ZEB実現に向けたアプローチを「パッシブ技術」「アクティブ技術」「創エネ技術」の3層構造で整理しています。まずは建物自体のエネルギー需要を減らし、その上で設備を効率化し、最後に再生可能エネルギーで残りをまかなうという順序が、最も合理的なアプローチとされています。
- 建物の省エネ性能を高める(パッシブ技術)
- 断熱・日射遮蔽・自然換気・昼光利用など、建築計画的な技術で建物のエネルギー負荷そのものを抑制し、環境の負荷低減につなげる
- 外壁・屋根・窓の高断熱化、庇やルーバーによる日射遮蔽が代表例
- 設備の効率化でエネルギー消費を削減(アクティブ技術)
- 高効率照明(LED等)・高効率空調など、省エネ設備の導入でエネルギー消費を最小化する
- BEMS(ビル・エネルギー管理システム)を活用し、在室状況に応じた自動制御やエネルギーの「見える化」を実現する
- 再生可能エネルギーでエネルギーを創る(創エネ技術)
- 太陽光発電・バイオマス発電など、敷地内(オンサイト)の再生可能エネルギーで消費分をまかなう
- ①②で消費エネルギーを十分に削減しておくことで、必要な設備規模を小さく抑えられる場合があります
このように、まずエネルギー需要そのものを抑えたうえで、残る消費を効率化し、最終的に再生可能エネルギーで補うことで、一次エネルギー消費量の収支ゼロを実現するのがZEBの基本的な考え方です。
日本のZEB普及状況
日本におけるZEBの普及は、国の政策目標に後押しされる形で年々拡大しています。
2014年のエネルギー基本計画において「2020年までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現する」という目標が掲げられて以来、経済産業省・環境省・国土交通省の3省が連携しながら、補助金制度の整備やZEBプランナー登録制度の創設など、普及を後押しするさまざまな施策が展開されてきました。
その結果、ZEBの認証件数は2016年度以降、着実に増加しています。一方で、大規模建築物や特定の建物用途では技術的・物理的な課題も残っており、2030年に向けてさらなる普及拡大が求められています。
以下は、経済産業省「ZEBロードマップフォローアップ委員会とりまとめ」(令和2年)に基づくデータです。
- ZEB件数
- BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)における ZEB の認証件数は、2020年1月時点で計323件
- 内訳は『ZEB』:29件、Nearly ZEB:64件、ZEB Ready:226件、ZEB Oriented:4件
- 2016年度以降、各年の経済状況等に応じた増減はあるものの、普及数は着実に増加している
- ZEB Readyの割合
- 件数ベースでは、延べ面積10,000㎡未満の小規模建築物が約9割を占める
- 延べ面積ベースでは、10,000㎡以上の大規模建築物が約7割を占め、そのうち約9割がZEB Ready
- 大規模建築物ほど完全ZEB(『ZEB』)の達成が技術的・物理的に難しい場合が多く、ZEB Readyにとどまるケースが多い
- 建物用途別の状況
- 2020年の普及目標(建物用途別・規模別の計8区分でZEB実現事例を1棟以上)について、病院および延べ面積10,000㎡以上の集会所を除く6区分で達成
- 民間事業者の事例を含めると、計8区分すべてで実現事例が存在する状況
- ZEBプランナー(ZEB設計・コンサルを行う登録事業者)は2020年2月末時点で189社が登録
- ZEBリーディング・オーナー(ZEB普及目標を公表するビルオーナー)は地方公共団体16・民間企業142が登録し、ZEB事例は271件に上る
以上のデータから、ZEBの普及は件数・事業者数ともに着実に拡大していることがわかります。一方で、件数の約9割を小規模建築物が占めており、エネルギー消費量への影響が大きい大規模建築物でのZEB化はまだ発展途上です。2030年の目標達成に向けて、規模や用途によって導入の難易度が異なる場合がある中で、ZEBのさらなる広がりが今後の鍵となっています。
ZEBの4つの種類
環境省:ZEB PORTAL
ZEBは、エネルギー削減の達成度合いに応じて4つの段階に分類されています。完全なゼロエネルギーを目指す「ZEB」を頂点として、Nearly ZEB・ZEB Ready・ZEB Orientedの4段階があり、建物の規模や用途・技術に応じた段階的なZEB化が可能な仕組みになっています。
小規模建築物から大規模建築物まで、それぞれの状況に合わせた目標設定ができる点が特徴です。
ここでは、環境省・経済産業省が定める「ZEBシリーズ」の4つの種類について、それぞれの特徴や違いを解説します。
ZEB
4段階の最上位に位置する、最も高いZEB水準です。年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスとなる建築物として評価され、省エネのみで基準値から50%以上削減したうえで、再生可能エネルギーを含めて100%以上の削減を達成する必要があります。
省エネと創エネの両方を最大限に活用する必要があるため、ZEB評価の中でも最も実現難易度が高く、特に太陽光発電パネルを設置できる屋上面積が限られる大規模建築物では達成が難しい場合もあります。
Nearly ZEB
「ZEB」に限りなく近い建築物として位置づけられる水準です。 Readyの省エネ要件(省エネのみで50%以上削減)を満たした上で、再生可能エネルギーを加えて75%以上100%未満の削減を達成することが求められます。
完全ZEBの達成が難しい建物でも、省エネ性能を確保したうえで再生可能エネルギーを導入することで、上位水準として評価される点が特徴です。
ZEB Ready
ZEBを見据えた先進建築物として評価される水準です。外皮の高断熱化および高効率な省エネルギー設備の導入により、再生可能エネルギーを除いた省エネのみで基準値から50%以上の削減を達成することが要件となります。
創エネ設備の導入は必須ではないため、設置条件が整わない建物でも取り組みやすく、ZEB評価の中でも最も普及している区分です。実際に日本の認証件数でも大きな割合を占めており、2030年に向けた普及目標として「新築建築物の平均でZEB Ready相当」が掲げられています。
ZEB Oriented
4段階の中で最も入門的な水準で、延べ面積10,000㎡以上の大規模建築物を対象とした区分です。ZEB Readyを見据えた建築物として、外皮の高性能化や高効率省エネ設備に加え、未評価技術(現行の評価プログラムでは評価されていない先進的な省エネ技術)の導入が求められます。削減率の要件は用途によって異なり、事務所・学校・工場等は40%以上、ホテル・病院・百貨店等は30%以上の削減が必要です
大規模建築物はエネルギー消費量への影響が大きいことから、ZEB Orientedはこうした建物のZEB化を段階的に後押しするために設けられた区分です。
| 種類 | 定義のポイント | 省エネのみの削減率 | 創エネ含む削減率 | 対象規模 |
|---|---|---|---|---|
| ZEB | 一次エネルギー消費量が正味ゼロ以下 | 50%以上 | 100%以上 | 制限なし |
| Nearly ZEB | ZEBに限りなく近い建築物 | 50%以上 | 75%以上100%未満 | 制限なし |
| ZEB Ready | ZEBを見据えた先進建築物 | 50%以上 | 必須要件なし | 制限なし |
| ZEB Oriented | ZEB Readyを見据えた建築物 | 40%以上(事務所等)/30%以上(ホテル等) | 必須要件なし | 延べ面積10,000㎡以上+未評価技術の導入が必須 |
ZEBのメリット
ZEBの導入によって得られるメリットは、光熱費の削減にとどまりません。国の審議会資料においても、ZEB化の便益として「エネルギーの自立化に伴うBCP性能の向上」「室内環境品質が高まることによる快適性・健康性や知的生産性の向上」「CSR・ESG投資としての企業価値向上」が明示されており、経済・環境・社会の各側面にわたる多様な価値を持つ取り組みとして高く評価されています。
こうした幅広いメリットは、建物オーナー・テナント企業・投資家それぞれにとっての利点となります。
ここでは、ZEB導入によって期待できる主な4つのメリットを解説します。
光熱費などエネルギーコスト削減
ZEB導入がもたらす最大の恩恵のひとつが、光熱費をはじめとするエネルギーコストの削減です。省エネ技術で消費エネルギーを大幅に減らし、太陽光発電などの創エネ設備で自らエネルギーを生み出すことで、外部から購入するエネルギー量を継続的に抑制できます。
経済産業省のZEB実証事業における改修事例では、年間のランニングコストが約38%削減された事例も報告されています。特に、エネルギー価格が変動しやすい昨今の経済環境において、自ら発電・消費できるエネルギー自立度の高い建物は、将来のコスト変動リスクへの備えとしても評価されています。
初期投資は必要ですが、長い目で見れば光熱費削減による投資回収が期待できる点も、ZEBが企業・公共機関から注目される理由のひとつです。
ESG・環境経営への貢献
ZEBは、企業の環境経営やESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みとして高い評価を得られる施策です。
脱炭素社会の実現に向けた機運が高まる中、投資家や取引先・消費者から環境への取り組みに対する関心は年々高まっています。ZEBの導入は建物のCO2排出量を大幅に削減することから、SDGs目標への貢献、RE100への参加を検討する企業のエネルギー戦略とも親和性が高く、CSR・サステナビリティ報告書における具体的な実績として示すことができます。
また、建物を自社で保有するオーナー企業にとっては、環境不動産としての評価向上にも直結します。ESG投資の拡大により、環境性能の高い建物を保有していることが企業評価の一要素として認識されつつある現在、ZEB化は単なる省エネ対策にとどまらず、企業価値向上への投資として位置づけることができます。
災害時のレジリエンス強化
ZEBは、災害時の事業継続能力(BCP:Business Continuity Plan)を高める建物としても評価されています。
太陽光発電、蓄電池、自立運転機能、非常用電源回路などを適切に組み合わせることで、停電時にも必要な設備へ一定の電力を供給し、建物の事業継続性を高めることができます。大規模停電が発生した場合に、通常の建物では業務の継続が困難になる一方で、ZEBではエネルギーの自立化によって事業継続を支えることができます。
経済産業省「ZEBロードマップ検討委員会とりまとめ」においても、「エネルギーの自立化に伴うBCP性能の向上」がZEB化の重要な便益のひとつとして明示されており、近年の気候変動による自然災害の頻発化を背景に、この観点からZEBへの関心が高まっています。公共施設や医療機関など、災害時に地域の拠点となる建物において特に有効な特性です。
不動産価値・企業イメージ向上
ZEB建築は、従来の建物と比べて不動産としての資産価値や企業イメージの面でも優位性を持ちます。
省エネ性能の高い建物はBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)などの認証制度において高評価を得やすく、テナント誘致や入居率の維持・向上に有利に働くことが期待されます。光熱費を抑えられる高性能ビルへの入居ニーズは、特にESGを重視する企業テナントから高まっており、ZEB認証を取得した建物はオフィス選定の選択肢として競争力を持ちます。
また、自社ビルをZEB化することは、環境問題への取り組みとして広く発信できる明確なアクションです。経済産業省の審議会資料でも「CSR・企業価値向上」がZEBのコベネフィットとして挙げられており、社員・求職者・取引先・地域社会に向けた企業ブランドの向上にも貢献します。
ZEB導入時の課題と解決のポイント
ZEBの導入には、建物の条件や目指す水準に応じて、事前に検討しておくべき課題があります。主なポイントは、「初期投資」「設計・運用体制」「建物条件に応じた目標設定」の3点です。
ただし、これらはZEBそのもののデメリットというより、計画段階で整理し、適切な方法を選ぶことで対応できる課題です。
補助金の活用、設備更新に合わせた段階的な導入、ZEBプランナーなど専門事業者との連携によって、負担を抑えながら現実的にZEB化を進めることができます。
ここでは、ZEB導入時に検討すべき3つの課題と、その解決のポイントを解説します。
初期投資をどのように抑えるか
ZEB化では、高断熱化や高効率空調、LED照明、BEMS、太陽光発電などの導入により、通常の建築や設備更新と比べて追加費用が発生する場合があります。
ただし、すべての設備を一度に導入する必要があるとは限りません。既存設備の更新時期に合わせて段階的に導入する、まずはZEB Readyを目指す、利用可能な補助金を活用するといった方法により、初期負担を抑えることができます。
また、ZEB化の効果は導入時の費用だけでは判断できません。運用開始後の光熱費削減、設備の高効率化、将来のエネルギー価格上昇への備えなどを含め、建物のライフサイクル全体で投資効果を評価することが重要です。
建物の用途や設備更新計画に合わせて導入範囲と目標水準を設定することで、費用対効果の高いZEB化を進めることができます。
専門事業者との連携が重要
ZEB化では、断熱や自然採光などのパッシブ技術、高効率空調や照明制御などのアクティブ技術、太陽光発電などの創エネ技術を、建物の用途や規模に応じて適切に組み合わせる必要があります。
そのため、計画の初期段階から、設計者、設備事業者、ZEBプランナーなどの専門事業者と連携することが重要です。
また、ZEBは建物を完成させ、認証を取得すれば終わりではありません。運用開始後もBEMSなどを活用してエネルギー使用量や設備の稼働状況を把握し、空調・照明などの設定を継続的に改善することで、設計時に想定した省エネ性能を維持できます。
設計から施工、運用改善までを一体的に考えることが、ZEBの効果を長期にわたって引き出すポイントです。
建物に合ったZEB水準を設定する
ZEB化の方法や目指すべき水準は、建物の規模、用途、立地、形状、設備構成などによって異なります。
例えば、都心部の高層ビルでは、太陽光発電設備を設置できる屋上面積が限られるため、創エネを含めて一次エネルギー消費量を実質ゼロにする『ZEB』の達成が難しい場合があります。
しかし、そのような建物でも、省エネによって一次エネルギー消費量を50%以上削減するZEB Readyや、大規模建築物を対象としたZEB Orientedを目指すことができます。
ZEB化では、すべての建物が最初から同じ水準を目指す必要はありません。建物の条件や設備更新計画、投資効果に応じて現実的な目標を設定し、段階的に省エネ性能を高めていくことが重要です。
まずは現在のエネルギー使用状況を把握し、削減効果の大きい空調・照明などから改善を進めることが、着実なZEB化につながります。
ZEB導入チェックリスト
ZEBの導入を検討する前に、まず自社の建物がZEB化に適しているかどうかを確認しておきましょう。以下のチェックリストは、ZEB化の可能性や目指すべき区分を大まかに把握するための評価の目安です。
建物の基本条件を確認する
- 対象建物は非住宅建築物(オフィス・商業施設・学校・病院・工場など)である
- 建物の延べ面積・階数・用途が把握できている
- 新築計画、または既存建物の大規模改修・機器更新を検討している
- 建物の年間エネルギー消費量(電気・ガスなど)のデータがある
省エネ性能を確認する
- 現在の断熱性能・窓の仕様を把握している
- 空調・照明・換気システムの種類・導入年数を把握している
- BEMSなどのエネルギー管理システムが導入されている(または導入を検討している)
- 現状のBEI(基準一次エネルギー消費量比)を確認したことがある
創エネの可能性を確認する
- 屋上や屋根に太陽光発電パネルを設置できるスペースがある
- 日照条件が良好で、太陽光発電の発電量が見込める立地である
- 蓄電池の設置スペース・導入コストについて検討したことがある
体制・スケジュールを確認する
- ZEBの設計・コンサルティングができるZEBプランナーを探している(または相談済み)
- 補助金の申請に必要な設計段階からの準備スケジュールを把握している
- 建物オーナー・テナント・設計者など関係者間でZEB化の方針を共有できている
建物の基本条件がすべてチェックの方▼
ZEB化の検討をすぐに始められる状況と評価できます。
ZEBプランナーに相談し、目指すレベルと概算コストの試算から着手しましょう。
省エネ性能・創エネのチェックが半分以下の方 ▼
まず現状把握から始めることをおすすめします。エネルギー消費量の実績データを整理した上で、ZEBプランナーや設計事務所に現状診断を依頼してみましょう。
チェックがほとんどつかない方▼
ZEB化の検討にはまだ前提条件の整理が必要な段階と評価できます。
「ZEB PORTAL」の情報も参考にしながら、まずは情報収集から始めましょう。
ZEB導入費用の目安
ZEB導入にかかる費用は、建物の規模・用途・目指すZEB水準によって大きく異なります。ここでは、経済産業省「ZEBロードマップ検討委員会とりまとめ」のケーススタディをもとに、費用の目安を整理します。
建築費(初期投資コストの増加分)
ZEB Ready水準を実現するために必要な追加の設備・材料コストは、通常の建築コスト総額と比べてどの程度増加するのかが、国のケーススタディで試算されています。
| 建物用途 | 設備・材料コストの増加率(目安) | ㎡あたりの増加額(目安) |
|---|---|---|
| 事務所(標準) | 約1.7% | 約5,000円/㎡ |
| 事務所(ガラス建築・外皮強化含む) | 約6% | 約11,700円/㎡ |
| 学校 | 約5% | 約10,500円/㎡ |
| ホテル | 約3% | 約6,000円/㎡ |
ただしこれらはあくまで設備・材料コストのみの試算です。自然採光・自然換気などのパッシブ手法の採用に伴う建築計画の見直しや、BEMSなど運用管理設備の追加、それに伴う人件コストの増加なども考慮すると、トータルの追加コストは建築コスト総額の15%程度以上になる場合もあることが、同委員会から指摘されています。
なお、Nearly ZEB・ZEB水準を目指す場合は、これらに加えて太陽光発電パネルや蓄電池の導入コスト・定期的な維持管理・更新コストが別途発生する点にも注意が必要です。
設備費の内訳
ZEB化に伴うコスト増加は、主に以下の機器・工事に発生します。
- 外皮(断熱・窓)
高断熱窓(Low-Eガラス等)や断熱材の強化。窓面積が大きいほどコスト増が大きくなる傾向 - 空調システム
高効率熱源機器・VAV(変風量)システム・外気冷房など - 照明設備
LED化・照度センサー・昼光調光制御の導入 - 換気システム
高効率モーター・CO2濃度制御システムなど - 創エネ設備
太陽光発電パネル・蓄電池(Nearly ZEB・ZEB水準で必要) - エネルギー管理
BEMS(ビル・エネルギー管理システム)の導入
回収年数の考え方
ZEB化の追加コストは、運用開始後の光熱費削減によって回収できる可能性があります。実際の改修事例では、年間のランニングコストが約38%削減された報告もあります。
回収年数は以下の要素によって変わります。
- 建物の規模・用途・現状のエネルギー消費量
- 目指すZEB水準(ZEB Readyか、Nearly ZEBか)
- 補助金の活用有無(補助金を活用することで回収期間を大幅に短縮できる場合がある)
注意事項: 上記の数値はあくまで目安であり、実際のコストは建物の個別条件によって大きく異なります。具体的な費用については、ZEBプランナーや設計事務所に相談の上、個別に試算することをおすすめします。
ZEBの導入事例
ZEBは一部の先進的な企業だけの取り組みではありません。住宅を対象とするZEHとは異なり、ZEBは事務所・学校・病院・公共施設・商業施設など非住宅建築物を広く対象としており、さまざまな用途・規模の建物で実現実績が積み上がっています。新築だけでなく既存建物の改修によるZEB化も広がっています。
国の実証事業に採択されたZEBの中には、年間のランニングコストを大幅に削減しながら従業員の快適性・知的生産性の向上も同時に実現したオフィスビルや、公共施設として国内初のNearly ZEB認証を取得した公共研究施設など、費用面のメリットと環境性能を両立した取り組みが多数報告されています。
ここでは、実際のZEB事例をもとに、エネルギー削減やコストメリットを実現するための具体的な工夫を解説します。
オフィスビルのZEB事例
オフィスビルはZEB導入事例で最も件数が多い用途であり、新築・改修ともに実績が豊富です。空調・照明・換気が主要なエネルギー消費源であるため、これらの高効率化とBEMSによる最適制御を組み合わせることで高い省エネ効果を発揮しやすい特性があります。
①:三菱電機 ZEB関連技術実証棟「SUSTIE」
ZEB関連技術の開発・実証を目的として2020年に竣工した実証棟「SUSTIE」は、6,000㎡を超える中規模オフィスビルとして設計段階での『ZEB』(基準一次エネルギー消費量比106%削減)を日本で初めて達成しました。CASBEEウェルネスオフィスSランクも取得し、省エネと快適な執務環境を高い次元で両立しています。年間CO2削減量は354t-CO2/年、年間光熱費削減額は約1,733万円(想定値)と試算されており、補助金を活用せず総工費40億円で実現しました。
| 建物名 | ZEB関連技術実証棟「SUSTIE」(三菱電機株式会社) |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県 |
| 竣工年 | 2020年 |
| ZEB水準 | 『ZEB』(完全ZEB) |
| 延床面積 | 6,456㎡(地上4階) |
| 省エネ削減率 | 62%(創エネ除く)/106%(創エネ含む) |
| 年間CO2削減量 | 354t-CO2/年(計算値) |
| 年間光熱費削減額 | 約1,733万円/年(想定値) |
| 主な技術 | 高効率空調・BEMS・自然換気・太陽光発電・ビルシミュレーション技術 |
| 補助金活用 | なし |
環境省:ZEB PORTAL
②:ダイキン工業福岡ビル(改修・福岡県)
1996年竣工の既存事務所ビルを2017年に改修しZEB Readyを達成した事例です。空調・換気・照明に特化した改修でコストを抑えながら高い省エネ効果を実現し、従業員の快適性・知的生産性の向上も同時に達成しました。空調容量の最適化にあたっては、遠隔監視システムによる運転データ分析を活用し、従業員の不満を生じさせることなく設計要件を見直しています。
| 建物名 | ダイキン工業福岡ビル |
|---|---|
| 所在地 | 福岡県福岡市 |
| 竣工年/改修年 | 1996年竣工・2017年改修 |
| ZEB水準 | ZEB Ready(設計評価) |
| 延床面積 | 2,620㎡(地上4階) |
| 省エネ削減率 | 62%削減(設計値) |
| 年間ランニングコスト削減率 | 約38%削減(実績値) |
| 主な技術 | 潜顕熱分離空調・LED照明・BEMS・太陽光発電・遠隔監視システム |
| 補助金活用 | あり |
教育施設・大規模施設のZEB事例
教育施設や大規模施設は、ZEB化の難易度が高い一方で、近年実証事例が着実に増えている分野です。大学施設・アリーナ・研究施設などは、用途の多様性やエネルギー消費量の大きさから高度な設計が求められますが、その分ZEB化による効果も大きいとされています。
また、これらの施設は不特定多数の利用者が訪れることから、快適性や安全性を確保しながら省エネを実現する必要があります。さらに、教育施設や公共性の高い大規模施設では、環境配慮の取り組みを発信することで、環境教育や社会的価値の向上につながる点も特徴です。
近年では、国の実証事業や先進的な設計手法の導入により、これまでZEB化が難しいとされてきた大規模施設においても、ZEB ReadyやNearly ZEBの達成事例が増加しています。
①:愛知県環境調査センター・愛知県衛生研究所
愛知県がPFI事業として整備した公共研究施設で、公共施設として国内初・全国トップクラスのZEB認証を取得した先駆的事例です。井水熱利用空調という地域特性を活かした技術を採用し、在席連動の自動制御と組み合わせることで高い省エネ効果を実現しました。
| 建物名 | 愛知県環境調査センター・愛知県衛生研究所 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市 |
| ZEB水準 | Nearly ZEB(公共施設として国内初認証) |
| 延床面積 | 約8,147㎡(地上4階) |
| 省エネ削減率 | 57%削減(創エネ除く)/85%削減(創エネ含む) |
| 主な技術 | 井水熱利用空調・高効率熱源・在席連動制御・太陽光発電 |
| 事業者 | 愛知ZEBサポート(大成建設グループ設立の特別目的会社) |
②:早稲田大学アリーナ(東京都)
大学の多機能型アリーナとして、BELSの最高ランク「☆5」と「ZEB(ZEB Ready)」認証を取得しました。施設の大半を地下に埋設するという計画特性を活かし、地中熱を利用した空調システムや太陽光発電等を組み合わせ、一次エネルギー消費量を61%削減しZEB Readyを実現しています。 大規模なアリーナという難易度の高い用途でZEB Readyを達成した点で、大規模施設のZEB化可能性を示す注目の実績です。
| 建物名 | 早稲田大学37号館 早稲田アリーナ |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区 |
| ZEB水準 | ZEB Ready(BELS☆5) |
| 延床面積 | 約14,028㎡(地上4階・地下2階) |
| 省エネ削減率 | 61%削減(創エネ5%含む) |
| 主な技術 | 地中熱利用空調・太陽光発電・自然採光・高効率設備 |
出所)環境省ZEB PORTAL 新築ZEB事例
より多くの取り組みは「ZEB PORTAL 事例紹介」および「改修ZEB事例」でご確認いただけます。
ZEBに活用できる補助金制度
ZEB導入の初期コストを抑えるために、国の補助金制度を積極的に活用することが重要です。現在、環境省・経済産業省・国土交通省の3省がそれぞれZEB関連の補助事業を実施しており、建物の規模・用途・新築/既存改修などの条件に応じた制度を選択できます。
主な補助金制度一覧(令和7年度時点の一例)
| 補助事業名 | 所管省庁 | 対象 | 補助率・上限の目安 |
|---|---|---|---|
| ZEB実証事業 | 経済産業省・環境省(執行:SII等) | 新築・既存の非住宅建築物 | 補助上限は事業規模や年度により異なる(数億円規模) |
| EB普及促進支援事業 | 環境省 | 新築・既存の業務用建築物 | 1/3〜2/3以内(規模・用途により異なる) |
| LCCO2削減型の先導的な新築ZEB支援事業 | 環境省 | 新築建築物(ライフサイクルCO2削減) | 要件・補助率は公募要領で確認 |
| 脱炭素ビルリノベ事業 | 環境省 | 既存業務用建築物の改修 | 要件・補助率は公募要領で確認 |
| サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型) | 国土交通省 | 新築・既存の住宅・非住宅建築物 | 補助率1/2以内など(事業区分により異なる) |
※ 上記はいずれも年度ごとに内容・要件・公募期間が変わります。最新情報は環境省「ZEB PORTAL 支援制度一覧」および各省庁の公式サイトをご確認ください。
補助金活用の3つのポイント
- 早期相談が必須: 補助金の採択には設計段階からの申請準備が必要なため、ZEBプランナーへの相談は計画初期から始めることが重要です
- 国・自治体の組み合わせ: 国の補助金に加えて、都道府県・市区町村独自の補助制度と併用できる場合があります。お住まいの自治体の制度も合わせて確認しましょう
- 年度ごとに変動: 補助率・上限額・公募期間は毎年度更新されます。最新情報は各省庁の公式サイトや一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)のホームページでご確認ください
ZEB導入までの流れ
ZEBの導入は、通常の建築プロセスとは異なる専門的な検討が必要です。ZEBの設計には省エネ計算や技術の組み合わせに関する高度なノウハウが求められるため、構想段階からZEBを前提とした計画を立て、専門家と連携しながら進めることが重要です。
特に、建物の外皮性能(断熱・日射遮蔽)は一度建てると改修が困難であることから、設計の初期段階での意思決定が後の性能を大きく左右します。ZEBの実現を目指す場合は、通常の設計着手よりも早い段階でZEBプランナーや設計事務所に相談し、目指す水準・コストの整理をしておくことが、スムーズな導入への近道です。
以下では、ZEB導入の一般的な流れを4つのステップで解説します。
①現状のエネルギー消費量を把握する
- 用途・規模・形状: 建物の延べ面積・階数・用途(事務所・学校・病院など)を整理する
- 年間エネルギー消費量: 空調・照明・換気・給湯・昇降機それぞれの一次エネルギー消費量を把握する
- 基準一次エネルギー消費量との比較: 省エネ基準(BEI)との差分を確認し、現状の省エネ性能を評価した上で、どの程度の削減が必要かを明確にする
- 建物条件の確認: 日照条件・屋上面積・既存システムの状況など、ZEB化に影響する条件を整理する
この段階での情報整理が、その後の設計方針やZEB水準の目標設定に直結します。ZEBプランナーへの相談もこの段階から始めることが推奨されます。
②省エネ設計を検討する
現状の把握をもとに、ZEB水準を達成するための省エネ設計を検討します。このステップが、ZEB実現に向けた技術の核心となる部分です。
設計の検討は、以下の順序で進めることが基本とされています。
- パッシブ技術の最大活用(最優先): 断熱・日射遮蔽・自然換気・昼光利用など、建築計画的な手法で建物のエネルギー負荷そのものを削減する
- アクティブ技術の導入: 高効率空調・LED照明・高効率換気設備・BEMSなど、省エネ設備を組み合わせてエネルギー消費を最小化する
- 省エネ計算(WEBPRO)による検証: 国が定める省エネ計算プログラム(WEBPRO)を用いて、設計段階で一次エネルギー消費量の削減率を算出・確認する
- 補助金・支援制度の確認: 環境省・経済産業省の補助金制度を確認し、活用可能な制度を設計段階で組み込む
ZEB設計の専門ノウハウを持つZEBプランナーや設計事務所と連携しながら、建物の条件に最適な技術の組み合わせを検討することが重要です。
③再生可能エネルギーを導入する
省エネ技術で消費エネルギーを大幅に削減した上で、残りのエネルギーを賄う再生可能エネルギーを導入します。なお、ZEB Readyの場合は創エネの導入は必須ではありませんが、Nearly ZEB・ZEBを目指す場合は不可欠なステップです。
主な検討事項は以下のとおりです。
- 太陽光発電の設置検討: 屋上面積・日照条件をもとに、設置可能な発電容量を試算する
- 発電量と消費量のバランス確認: WEBPRO等で再生可能エネルギーを含めた最終的なエネルギー収支を確認し、目標とするZEB水準を達成できるかを検証する
- 蓄電池の検討: Nearly ZEB・ZEB水準を目指す場合や、BCP性能の強化を図る場合は蓄電池の導入も検討する
- オンサイト(敷地内)の確認: ZEBの評価対象となる再生可能エネルギーは敷地内(オンサイト)に限定されるため、設置場所の条件を確認する
④ZEB認証を取得する
ZEB設計が完成したら、第三者機関による評価・認証を取得します。日本では、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)の枠組みの中でZEB認証が行われています。
認証取得の主な流れは以下のとおりです。
- BELS申請の準備: 一般社団法人住宅性能評価・表示協会などの評価機関に申請書類を提出する
- 省エネ計算書の提出: WEBPROによる省エネ計算結果をもとに、ZEB水準(ZEB Ready・Nearly ZEB・ZEBなど)に応じた削減率を証明する書類を用意する
- 評価・認証の取得: 審査を経てBELS評価書が発行され、ZEB認証が正式に取得できる
- 運用後のモニタリング: 認証取得後も、BEMSを活用してエネルギー消費量を継続的に計測・管理し、設計値どおりの性能が発揮されているかを確認する
認証取得によって、建物のZEB性能が対外的に証明されるため、ESG・CSR活動の発信やテナント誘致、補助金申請などにも活用できます。
ZEBについてよくある質問
Q. ZEBは新築建物にしか適用できませんか?
A. いいえ、既存建物への改修(改修ZEB)でも実現できます。外皮改修や機器の更新、太陽光発電の後付け設置などを組み合わせることで、既存ビルでもZEB水準を達成した事例が複数報告されています。ただし、新築と比べて建物の構造や既存システムの制約を受けるため、まずはZEBプランナーに現状の建物条件を診断してもらうことをおすすめします。
Q. ZEBにすると室内環境は悪くなりませんか?
A. ZEBは「室内環境の質を維持しつつ」エネルギー消費量をゼロに近づけることを前提とした概念です。むしろ、高断熱・高気密な外皮性能や高効率空調の導入により、温度ムラや結露が減少し、従来の建物より快適な環境が実現される場合が多くあります。照明も高効率LED+調光制御を組み合わせることで、省エネと快適性を両立できます。
Q. ZEBとZEB Readyはどちらを目指すべきですか?
A. 建物の規模・用途・予算・立地条件によって異なります。創エネ設備(太陽光発電など)の設置が難しい大規模建築物や都心の高容積率地域では、まずZEB Readyを目標とするケースが現実的です。一方、屋上面積が確保できる小〜中規模の建物であれば、Nearly ZEBや完全ZEBを目指すことも十分に可能です。なお、2030年の国の普及目標は「新築建築物の平均でZEB Ready相当」とされており、ZEB Readyはすでに国が標準として想定する基準です。いずれのレベルを目指す場合も、まずはZEBプランナーに自社の建物条件を評価してもらい、現実的な目標を設定することをおすすめします。
Q. ZEBの補助金はどこに申請すればよいですか?
A. 主な申請窓口は環境省・経済産業省・国土交通省の各補助事業です。代表的なものとして、環境省の「ZEB実証事業」や経済産業省の省エネ設備導入支援事業などがあります。補助金の採択要件や申請期間は年度ごとに変わるため、最新情報は環境省「ZEB PORTAL」または各省庁の公式サイトでご確認ください。ZEBプランナーに相談すると、活用できる補助金の選定から申請書類の作成支援まで対応してもらえる場合もあります。
まとめ
ZEBは、省エネと創エネを組み合わせることで年間のエネルギー収支を実質ゼロに近づける建物です。光熱費の削減・CO2排出量の低減にとどまらず、快適な執務環境の実現、BCP性能の向上、ESG経営への貢献など、建物オーナーと利用者の双方に多くのメリットをもたらします。 本記事では、ZEBの定義・仕組み・4つの水準から、導入費用の目安・補助金制度・導入までの流れまで、ZEBを検討するうえで必要な情報を幅広く解説しました。
また、オフィスビル・教育施設・商業施設など実際の導入事例からもわかるとおり、ZEBはすでに多様な用途・規模の建物で高く評価されており、新築だけでなく既存建物の改修でも達成可能な目標です。
ZEB導入のハードルとして初期費用が挙げられることも多いですが、国の補助金制度を活用することで負担を大幅に軽減でき、長期的には光熱費削減によって投資を回収できる見通しが立てやすくなっています。
これからZEBを検討する方は、まず建物のエネルギー消費量の現状把握とZEBプランナーへの相談から始めることをおすすめします。設計の初期段階からZEBを前提とした計画を立てることが、スムーズな実現への近道です。
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